カバーソング温故知新・祭り拾遺篇

ゆかりっく Advent Calendar 2023#ゆかりんアドカレ 24日目のエントリへようこそ。

23日目の記事は こま さんの番でしたが、本稿の執筆中には間に合わなかったようで…掲載されましたら追って更新します。ゆかりちゃんとお衣装」でした。正直なところ私は衣装に関する記憶力が高い方ではないので、このツアー/イベントと言えばこの衣装! という視点での紹介はありがたいものです。

もう1日遡った22日目の記事は こばん さんの「自由研究:王国謹製ペンライト」でした。ライヴやイベントの際に必ずと言って良いほど手にしているペンライトを電力消費の面から見るという発想は大変新鮮でした。

はじめに

 #ゆかりんアドカレ への寄稿も3年連続となりました、しらさぎ と申します。折角なので毎回同じ日付を選んでいます。

さて、2023年の田村ゆかりさんの音楽面での活動はこれまで以上に旺盛で、4月に発売されたアルバム『かくれんぼ。』を引っ提げて約5ヶ月間に亘る28公演もの全国ツアーを展開。更に11月と12月には特定の作家陣によるコンセプトEP『Altoemion』と『You are the world!』を連続リリース…と、ほぼ毎月のように何らかの活動がある充実の一年となりましたが、そんな中で11月に開催されたのが「17才だよ?! おとなのゆかりちゃん祭り@高円寺」と題されたイベントでした

「ゆかりちゃん祭り」と題されたイベントの開催は2008年*1、2013年*2と過去に二度ありましたが内容は特に定まっておらず、今回は2013年イベントのMCに由来して公演タイトルに「@高円寺」と付いているにも拘わらず会場がパシフィコ横浜…と開催発表の時点でなかなかの曲者感を漂わせておりましたが、果たしてその内容は通常のライヴやFCイベントとも違う自由度の高さを良い意味で感じる、これまでにないイベントとなりました。その特徴の一つが「歌唱されたカバー曲の多さ」で、その数なんと9曲。

昨年の #ゆかりんアドカレ で、過去のライヴイベントでゆかりさんが歌った「20世紀内リリースのカバー曲」をまとめたエントリ『カバーソング温故知新』を上梓した私としては、その9曲中8曲が20世紀の曲とあってテンションが上がりっぱなし。その勢いで書き上げることにした本稿では昨年に引き続き、

  • カバー元の楽曲が2000年12月31日以前(20世紀)にリリースされている、
  • 2023年11月開催「17才だよ?! おとなのゆかりちゃん祭り@高円寺」で披露された

楽曲について、昔話を交えつつご紹介しようと思います。

今回のお品書きはこちら。

スタッフリクエストパート

前日のFCイベントで『クイズ・ゆかりさんスタッフ64人に聞きました』で若干の軋轢が感じられ…たかどうかはさて置き、ゆかりさんの活動を支えるスタッフの皆さんから募った「ゆかりさんに歌ってほしいカバー曲」のアンケート結果を基に、ゆかりさんが4曲選んで披露されたパートでは、2018年のゆかりっくFes以来二度目の披露となった阿部真央さんの「貴方の恋人になりたいのです」(2010年)を除いた3曲が該当します。

1曲目: 松田聖子赤いスイートピー』(1982年)

松田聖子さん8枚目のシングル表題曲。聖子ちゃん楽曲のカバーは3曲目になりますが、昨年の記事でもご紹介したこれまでの2曲*3より以前の、そして少し趣が異なるライトなバラード曲。作曲は『時間の国のアリス』と同じ呉田軽穂こと松任谷由実さんです。押しも押されもせぬ聖子ちゃん作品を代表する楽曲の一つですから、スタッフだけでなく王国民の方々の中にも歌ってほしいという希望が多くあったのではないでしょうか。

余談ですが、聖子ちゃん初期のシングル曲は『青い珊瑚礁』『白いパラソル』そして『赤いスイートピー』と、色の名前が付いた名曲が多いですね…

2曲目: 中森明菜『少女A』(1982年)

前曲と同じく1982年にリリースされた中森明菜さん2枚目のシングル表題曲。曲振りのMCでゆかりさんが「どうしても"ちゃん付け"で呼んでしまう」と口にしたところから、明菜ちゃんの曲を披露するであろうことは確信していましたが、選曲がちょっと意外ではありました。

所謂正統派バラードのデビュー曲『スローモーション』とは方向性を異にしたロック調の楽曲ですが、「花の82年組」という言葉もあるアイドル百花繚乱の時代に、明菜ちゃんのシングル表題曲は当人のやや低め且つハスキーな声色を背景にしてこの2つの方向性でヒットを重ねていきます。ロック調であれば『DESIRE -情熱-』、『飾りじゃないのよ涙は』や『TANGO NOIR』、バラードですと『セカンド・ラブ』に『難破船』が挙げられるでしょうか。そのため1990年に『Dear Friend』がリリースされた時にはあまりのポップさに相当吃驚したのを今でもよく覚えています…個人的には大好きなんですけど。

イベント後の感想を見ていますと、明菜ちゃんの曲なら次は『DESIRE -情熱-』を…という声をよく目にしましたが、個人的には『難破船』を歌い上げていただく姿も見てみたいところです。…重すぎますかね?

3曲目: 高橋由美子『友達でいいから』(1994年)

高橋由美子さん13枚目のシングル表題曲。高橋由美子さんの楽曲カバーも昨年ご紹介した『アチチッチ -fire version-』、『Good Love』に続いて3曲目になります。本曲はMCでも触れられていましたが、ご本人が主演のテレビ朝日系月曜20時のドラマ「南くんの恋人」の主題歌でした。当時は番宣映像を見ただけですが、現在のような映像編集技術がない約30年前に、ミニマムサイズの女の子を映像作品にするという制作はなかなか挑戦的であったと記憶しています。そう言えば相手役は武田真治さんでしたね…

このドラマ、原作は内田春菊さんの漫画ですが、この枠では少女漫画を原作にしたドラマが数年間に亘って複数作品製作されており、後年「ガラスの仮面」が安達祐実さん主演でドラマ化された時の放送枠もここだったりします。

それはさておき、これまでいろいろ高橋由美子さん楽曲をカバーしてくれたゆかりさんに、今度は『笑顔の魔法』を歌っていただけないかな…と。願うだけならタダですよね。

桃色男爵リクエストパート

リハーサル風景の映像コーナーを挟んで、続いてのパートは桃色男爵のメンバー一人ずつが「ゆかりさんと演りたい曲」を披露するというもの。初めての試みですが、それだけメンバー間の親睦の深さを感じる企画でもあります。

こちらは全ての選曲が対象となるので、披露順にご紹介です。

ノリさんリクエスト: 中山美穂 & WANDS世界中の誰よりきっと』(1992年)

トップバッターはギター担当、そしてバンドマスターのノリさん(堀崎翔さん)。デュエット曲の候補はいろいろあったそうですが、その中から選ばれたのは『世界中の誰よりきっと』。中山美穂さんの25枚目のシングル表題曲で、3人組のロックバンド・WANDSとジョイントする形で1992年に発表された楽曲。ご当人主演のフジテレビ系ドラマ「誰かが彼女を愛してる」の主題歌でもあります。

中山美穂さんは1985年のデビューで、同年に公開の映画「ビー・バップ・ハイスクール」で主演と同名楽曲のシングル(3枚目)をリリースしたのがブレイクのきっかけ。デビューからしばらくはアイドル的な活動が主でしたが、昭和末期から平成初期にかけての「女性アイドルブームの終息」と「トレンディドラマブームの勃興」という傾向に上手くハマった芸能人という印象で、自然な形で歌手・女優的なポジションへ移っていきました。それでも『You're My Only Shinin' Star』や『愛してるっていわない!』等、コンスタントに音楽作品の発表を重ねていく中で、初めて別のアーティストとコラボレーションする形でのシングルとなったのがこの『世界中の誰よりきっと』でした。

感覚的には昭和末期〜平成最初期の時期に、主に出演ドラマの主題歌としてヒットしたリリースが多くあるような捉え方ですが、シングル表題曲の作家陣を見ていると松井五郎さんや渡邊美佳さん*4の名前を見つけることも出来、ゆかりさんとの音楽的な接点は然程無さそうな印象はあるものの、遠からぬ縁を感じてしまいます。

ちなみに、『世界中の誰よりきっと』でコラボレーション相手となったWANDSは本曲のリリース時点ではデビューから一年未満で、この時点で最新リリースだった3枚目のシングル『もっと強く抱きしめたなら』はCMソングとしても使われ彼等の最初の看板曲となりましたが、ヒットしたのは本曲がミリオンセラーとなった後でした。しかし、本曲をきっかけとして『時の扉』『愛を語るより口づけを交わそう』とヒットを続け、最初のTVアニメ版「SLAM DUNK」のED主題歌になった『世界が終るまでは…』はこの2年後、1994年のシングル曲です。

個人的には、同時期にブレイクしたZARDT-BOLAN大黒摩季さん等と同じ音楽事務所に所属していたこともあって俗に言われていた「ビーイング系」の代名詞的存在としての印象が強いバンドです。なお、現在もグループとしては存続していますが、1992年当時のメンバーからは総入れ替えとなっています。

ラビさんリクエスト: Wink淋しい熱帯魚』(1989年)

2番手のキーボード担当・ラビさん(モチヅキヤスノリさん)が選んだのはWinkの5枚目のシングル表題曲『淋しい熱帯魚』。何故女性デュオの曲を? という疑問もありましょうが、*with me?*ツアー幕間の「Road to "with you"」コーナーでは、その日の公演の一つ前の会場までの舞台裏映像をダイジェストにまとめてくれていたのですが、その中で名古屋公演のリハーサル中にゆかりさんとラビさんがサビの振り付けを踊っていた曲、それがこの『淋しい熱帯魚』だったので、伏線回収のようなものと思っていただければ。

本曲のリリースは1989年。前年にデビューしたWinkはデビュー曲の『Sugar Baby Love』から『愛が止まらない 〜Turn it into love〜』『涙をみせないで 〜Boys Don't Cry〜』とヒット曲が続きましたが、いずれも洋楽の日本語訳詞カバー曲だったので、Winkオリジナルの楽曲としてはこの『淋しい熱帯魚』が初めての大ヒットとなりました。とは言え「Winkの楽曲」としてトータルで見ると、以後の作品も含めてカバー曲であれオリジナル曲であれユーロビート調のアレンジが施された方向性の統一感は感じられ、彼女たちの代名詞とも言える感情を表に出さない振り付けもその曲調に合うものと思っています。

ただ個人的に一番吃驚したのは、後年に入手したベストアルバムにハイパーユーロビートアレンジされた『JIVE INTO THE NIGHT』のカバーが収録されていたことでしたね…

ガルーダ会長リクエスト: 石原裕次郎『銀座の恋の物語』(1961年)

3番手に登場はツインギターの一角・ガルーダ会長(松尾洋一さん)。そのチョイスはどう考えても会長のカラオケ十八番ですよね…という大人のデュエット曲『銀座の恋の物語』。リリースは1961(昭和36)年ですから、昨年から取り上げてきた数多のカバー曲の中でリリースが最も古い曲になります。勿論私の生まれる前ですし、両親ですら少年少女時代を過ごしていた時期になりますかね…

歌唱しているのは当時の日本を代表するムービースター・石原裕次郎さんと牧村旬子さん。曲と同名の映画作品がありますが、こちらは曲の大ヒットを受けて1年後に製作されたもので、裕次郎さんと共演しているのは浅丘ルリ子さんでした。裕次郎さんはその後に活動の場をテレビに移し、「太陽にほえろ!」や「西部警察シリーズ」が代表作として残っていますが、病魔との戦いも多く、52才の若さで逝去したのが1987年。個人的には刑事ドラマを見る習慣があまりなかった環境にいたため、存命中の俳優活動についてはほぼ追えておらず、自分にとっての接点は親がラジオの「みんなのうた」を録音していたカセットテープに含まれていた『パパとあるこう』ぐらいでした。今聞き返すと「みんなのうた」の割に歌詞が重たいですね…w

ちなみに、この曲をシングルとしてリリースしたのはテイチクレコード。そう、現在ゆかりさんの音楽・映像メディアの販売元であるテイチクエンタテインメントです。Twitter (現:X)での積極的な告知、いつもありがとうございます。

エンゼルリクエスト: 椎名林檎丸ノ内サディスティック』(1999年)

4番手となったドラム担当・エンゼル(土橋誠さん)は他のメンバーとは違って「ゆかりさん+男爵メンバーでこの曲を演奏したい」という希望が選曲理由。TV等で披露される機会も多く、ベストアルバムにも収録されているので勘違いしていましたが、実はシングルカットされていなかった椎名林檎さんの『丸ノ内サディスティック』、初出が1999年リリースのアルバムなので本稿の対象になります。

収録された「無罪モラトリアム」は1枚目のアルバムですが、先行リリースされた3枚目のシングル『ここでキスして。』と共に彼女の知名度を上げるきっかけの一つとなった作品と言えるでしょう。これらに続くリリースとなった4枚目のシングル『本能』が、ナース服姿で回し蹴りを繰り出すシーンが有名なMVと相俟って大ヒットとなります。
時代としてはバンドブームが収束し、TKブームが落ち着いてきた1998〜99年というタイミングは宇多田ヒカルさんも同時期のデビューで、音楽的な方向性は全く違いますが公開オーディションに因らない新たな音楽性を持つ女性ソロアーティストの登場、という印象を受けた記憶があります。

個人的にゆかりさんが椎名林檎楽曲を歌うというのはちょっと想像しておらず、バンドメンバーによるセレクトが生んだ、良い意味での意外性が見られた一曲でした。

メリーさんリクエスト: ブラックビスケッツ『Timing〜タイミング〜』(1998年)

ラストバッターとなったベース担当・メリーさん(村上聖さん)はツノの付いた帽子をかぶって登場。最初はオリックスのグッズ*5かと思いましたがさにあらず、天山のそれだと気付いてからは楽曲も予想が付きました。同じくリズム隊のエンゼルを南々見狂也に見立て、ビビアンに当たるゆかりさんをセンターに据えて3人でブラックビスケッツの2枚目のシングル表題曲『Timing〜タイミング〜』を披露です。当人の選曲では披露されなかったエンゼルの歌声は、ここで聞けることになりました。

ブラックビスケッツ日本テレビ系のバラエティ番組「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」の出演者で構成された2組目のバンド。ということは先行の1組目がいます。それが爆風スランプパッパラー河合さんによるプロデュースで1996年にデビューしたポケットビスケッツポケビ・ブラビと略して呼ばれたこの2組はライバル関係に置かれ、番組企画の中で相互の活動に干渉していきます。個人的には、シングルの発売を賭けた対決企画でブラビに敗れたポケビの楽曲のマスターテープがクレーンに吊るされた巨大鉄球で粉砕されたシーンが大変印象深く記憶していますが、この企画にブラビが勝利したことで本曲がシングルとして日の目を見ることになったのでした。

ポケビのシングル表題曲は千秋さんのヴォーカルの強さを生かし、プロデュースを務めるパッパラー河合さん自身が手がけたバンドサウンドであったのに対して、ブラピはシングル表題曲の作曲に本曲の中西圭三小西貴雄の両名を始め、1枚目の『Stamina』では林田健司さん、3枚目の『Relax』では小森田実さんと、当時の主流的なポップミュージックのクリエイターを迎えて製作されており、キャラクターだけでなく楽曲面でもはっきりと差別化されていました。個人的な嗜好は後者に寄りがちで今でもたまに聞いているので、こういう場でゆかりさん達が披露してくれた嬉しさは相当なものがありました。

それにしても「マスターテープを粉砕」とは今から考えると…いや、勿論当時としても大変過激と言うか乱暴な企画ですが、このようなテレビ番組主導での歌手デビューやユニット結成、はたまたその活動の存亡を賭けるような企画は1990年代後半における日本のテレビの歴史を代表するような一面であり、この「ウリナリ!!」におけるポケビとブラビの関係には、テレビ東京系「ASAYAN」におけるモーニング娘。を始めとした一連の「つんくプロデュース女性ヴォーカリストオーディション」の影響を感じざるを得ないところではあります。

おわりに

改めて振り返ると「おとなのゆかりちゃん祭り!!」でのカバー曲たちは、一般的なゆかりさんのライヴ(LOVE♡LIVEと冠が付くもの)で披露されるカバー曲とは違った基準で選ばれたこともあって、また別のゆかりさんの魅力を引き出してくれたものになったのではないかと思います。

私としても昨年カバー曲を振り返る記事を上梓した時には、1年後に新たな、そして多彩なカバー曲たちにこれほどすぐに触れることが出来るとは思ってもみませんでした。

既に2024年に開催が予定されているライヴツアーの日程も発表になっています。今度はどんなゆかりさんのパフォーマンスが見られるのか、待ち遠しい限りです。

自分のライブラリには『銀座の恋の物語』以外はオリジナルが揃っていました。上出来。

さて、いよいよ #ゆかりんアドカレ 2023も最終日、明日12月25日は鶏ネギさんによる「鎖鎌と私」です。
…何度か読み返しましたが確かに「鎖鎌」ですね。ゆかりさんの活動やライヴパフォーマンスでは縁遠いと思われる「鎖鎌」がどんな意味を持つのか、内容が楽しみです。

その他にも、今年の「ゆかりっく Advent Calendar 2023」では様々な方のいろいろな視点による記事がありますので、併せてお楽しみください。

adventar.org

今年はめろうぷりすますの配信が無いようですが、どうぞ皆様素敵なクリスマスを。

*1:「秋だ、一番! ゆかりちゃん祭り!!」

*2:「17才だよ?! ゆかりちゃん祭り!!」

*3:天使のウィンク』と『時間の国のアリス

*4:『LOVELY MAGIC』や『めろ~んのテーマ』等、多くのゆかりさん関連楽曲に携わっています

*5:球団マスコットのバファローブルバファローベルのツノ帽子みたいなグッズが出ているのかと…w